バックナンバーVol.3「修正申告の強要」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆ Vol.3号 2011年8月4日 木曜日 配信 ◆ 本日のテーマ『修正申告の強要』 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「修正申告の強要」 税務調査で最も注意すべき瞬間があるとするなら、 それは間違いなく「修正申告書の提出時」です。 税務調査の結末として修正申告書を提出する場合、 「慫慂(しょうよう)」という行為になります。 「慫慂(しょうよう)」とは「他の人が勧めてそうするように仕向けること」 の意味で、つまり、税務調査において調査官(課税庁)が 納税者の申告内容の誤りについて指摘し、それを納税者が 「自ら認め納得したうえで」修正申告をすることです。 自ら誤りに気付いたわけではないので、自主的な修正申告書の提出と違い、 加算税が10%賦課されますが、これは慫慂だからなのです。 さて、税務署の実体として、基本的に税務調査の結末において (増額)更正をするという発想自体がないものと考えて構いません。 更正は税務署内では誰もが嫌がる法律行為なのです。 担当の調査官がいくら息巻いて「修正申告しないなら更正します」 と言ったとしても、最終決裁者である税務署長が そうそうOKを出すものではありません。 調査官も更正となると面倒なことをよく知っています。 更正となると、署長・副署長の決裁をもらう 重要審議会(通称:じゅうしん)が開かれるのですが、 この準備・開催だけでもかなり大変な事務量を強いられます。 またさらに、更正をするとなると、重要審議会の前に 国税局の主務課に行き、事前連絡をしなければなりません。 (国税局が訴訟リスクを把握するため) 更正しても異議申立てが出るため、違う部門であるとはいえ、 同じ税務署内で再調査をするわけですから、 自分達の仕事が増えるだけの行為と考えているのです。 このような事情から、税務調査は実質的に 「修正申告で終わるもの」と考えているのが調査官なのです。 実際に元国税の知り合いがいればぜひ聞いてください。 ほとんどの調査官が更正をした経験すらないはずです。 ここで問題になるのが、修正申告書の強要(≠慫慂)です。 「もういい加減終わりにしましょう」 「修正申告しないと大変なことになりますよ」 「この点は認容しますからそれ以外で修正してください」 言葉を変えては、修正申告を強要してくるわけです。 ご存知の通り、修正申告書を提出すると、 不服申立て等の手続きに移行することはできません。 あくまでも「慫慂」ですから、納税者が納得したから 修正申告書を提出した、という法的な行為なのです。 「納税者が調査官に修正申告を強要された」と認定されれば、 納税者の真意に基づかない行為なので、「無効」となります。 修正申告の強要であるか、適正な慫慂であるかの争いは いくつも起こっていますが、ほとんどのケースにおいて 納税者側が負けているのが実態です。 例えばこのような裁決事例があります。 平15.2.20裁決 裁決事例集No.65 納税者が勝訴している裁判もありますが、 かなり例外的な、あまりにヒドいケースだけです。 宮崎地裁 平成10年5月25日判決 TAINZコード Z232-8164 福岡高裁宮崎支部 平成12年6月13日判決 TAINZコード Z247-8670 など 納税者が「修正申告の強要」にほとんど勝てない理由は、 強要かどうかの立証責任は納税者側にあるからです。 実際に「強要された」といくら主張しても、 それを立証することは非常に難しく、 調査官も訴えまで起こされると、自らが納税者に言った 「語気」を弱めにしか証言しないでしょうから、 これでは勝てる要素などないに等しいと言えます。 私は常々言っていますが、税務調査では 「絶対に録音しておくこと」が必要になります。 ちなみに、修正申告の提出を強要され、その内容に 問題がある場合、民法総則の規定を適用して、 納税額の不当利得返還訴訟、または 租税債務の不存在確認訴訟を起こすことになります。 適用する民法の根拠条文は、 ①民法第95条(錯誤) 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。 ②民法第96条(詐欺または強迫) 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。 しかし、弁護士を雇ってまで修正申告の強要で 裁判を起こすのは、実質不可能に近いと思います。 (費用対効果を考えるのが当然ですから) そこで税務調査において絶対に守るべきスタンスが、 「納得できないものは絶対に修正申告しない」 という当り前のことです。 この当り前のスタンスを納税者・税理士が守ることができれば、 修正申告を強要されて提出することなどあり得ません。 またここはしっかり考えていただきたいのですが、 内容が同じであれば、修正申告と更正では 納付税額に違いが生じることはありません。 更正されることが何か納税者にとって不利なことがある、 というのであればまだしも、不利になることがないのですから、 更正されることを恐れないことも大事です。 合わせて、修正申告書の提出時には、 加算税等の説明をきちんと受けるべきです。 約10年前になりますが、国税の行政手続きがあまりに不透明で、 かつトラブルを起こしていたため、総務省が 平成12年11月10日に勧告を出しています。 『税務行政監察結果に基づく勧告』 この勧告を受け、国税庁がこれに回答をしています。 『税務行政監察結果に基づく勧告に対する回答』 この中で重要なのは、 「修正申告があった時は、加算税及び延滞税が課されることや 不服申立ての機会がなくなるなど、修正申告に伴う法的効果を 納税者に確実に教示すること、を事務手続きとして明確化した上、 平成12年12月、既に指示通達を発遣し、必要な措置を講じている。」 以上から、実務上修正申告の提出(慫慂)時には 調査官が紙を提示し、加算税・延滞税がかかる旨を 説明するのが一般的になっているはずなのですが、 いまだにこの手続きを漏らしているケースが多発しています。 私のところに相談にくる方の中でも、 「過少申告加算税だと思って修正申告書を提出したら、 重加算税の賦課通知が届いてビックリした。 調査官に確認の電話をしたら、「言ってませんでしたが 重加算税の要件を満たしているので賦課決定しました」 と平然と言われて対応に困っている」という話があります。 絶対に最後まで気を抜かないこと。 最後の最後が一番重要なのです。 今週は以上です。次回もどうぞご期待下さい。
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